李寧熙(イ・ヨンヒ)先生は、1989年、文芸春秋社からベストセラーになった『もう一つの万葉集』を出版されました。日本語と韓国語のバイリンガルであった先生によって万葉集の真の歌意が明らかにされていきます。万葉集は長い間本当の意味が理解されずに、花鳥風月あるいは恋愛を詠んだ歌と思われていたために、千二百年以上もの長い間原文のまま伝えられた、世界に稀有な歌集です。しかしそのほとんどは雑歌(ジャブノレ)=政争歌でした。そこには飛鳥時代から奈良時代にかけての驚くべき歴史の真実が隠されています。李寧熙先生は実に平成の30年間を万葉集の解読に捧げられました。そしてその過程で写楽の謎に出会い、それも解かれたのです。
「風の絵師」という韓国ドラマがありました。2008年に韓国のSBSで制作・放送された時代劇ドラマです。日本では、KNTVやBS日テレで2009年から放送されました。李氏朝鮮で最も有名な絵師として現代に多くの韓国画を残した実在の天才画家金弘道(ギム・ホンド)と、同じ時代を生きたもう一人の天才画家シン・ユンボクの二人を主人公にしたドラマが「風の絵師」です。韓国では知らない人がいない天才画家ギム・ホンドその人こそ日本における天才浮世絵師写楽であるというのがイ・ヨンヒ先生の著作『もう一人の写楽』の結論です。朝鮮通信使に同道した通訳官だった父と日本の母の間に生まれ、これまたバイリンガルだった十返事舎一九が著書『初登山手習方帖』(勉強嫌いの長松少年が天神様菅原道真の導きによって勉強好きになるというお話)の中に、この秘密が隠されていて、それをイ・ヨンヒ先生は解き明かされました。