51 孝謙と道鏡

2020年12月28日 12:03

万葉集13−3312  作者不詳

歌意
夢にまで見る初瀬に、交合しようとやってくるので布団を敷こう。天皇が夜這いにやって来たが、奥には母が、外には父が寝ているので、起きることも出て行くこともできないまま、暗闇の夜が明けていく。それは大変なことだ。燃える心を整理して、火遊びはお控えなさい。お篭りに行ってお祈りするのがよろしいでしょう。

 歌は天皇を「天皇寸」と表記している。読み下しは「すめろき」。真の意味は、ス=鉄、メ=山、ロ=国、キ=城、つまり「鉄山国王」「鉄の山を所有する王」の意。かつて鉄は富と権力の源だった。鉄を所有するものが支配者の座についた。支配者の根城は山、それも鉄の山だったのだ。

 この歌の天皇とは誰?弓削道鏡である。8世紀後半のこの歌は、冒頭と集結部分だけが韓国語。当時の日本語のあり方をまざまざと見せてくれる興味深い歌である。主に8世紀後半の実話をもとに書かれているという、仏教説話集『日本霊異記』の記述に見る限り、孝謙と道鏡は天平神護元年(765)の初めに、同じ枕にて情交し天下を収めたことになっているが、二人の出会いははるか以前に遡ると思われる。

 『万葉集』に31首ある「真祖鏡」を詠んだ歌。「真祖鏡」は銅鏡の古語である。まそ鏡は隠語のように用いられて来た、道鏡のあだ名だったようだ。道鏡と初めて会った時、孝謙は処女だったと思われる。『万葉集』巻11は冒頭から新築落成した家で踊る「未通女(おとめ)」を描いている。これらの歌から、天皇一家の新居が長谷に建てられ、そしてこの家が夜這いの舞台となったと思われる。道鏡の母は文武と持統の娘多紀、父は文武と橘三千代の息子高安王である。疎遠だった道鏡と孝謙がよりを戻したのは、天平宝字5年(761)、道鏡60歳、孝謙44歳の時。

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