79 製鉄に欠かせない豊富な水

2024年04月20日 11:04

閖をなぜ「ゆり」と読むのか

 古代の製鉄に欠かせないのは、火力の強い赤松に覆われた緑の山々と、豊富な水量の砂鉄の取れる川やため池である。特に水は大事である。
 水こそ古代においてもっとも貴重な存在。尊敬語の「御」をなぜ「み」と読ませたか。「水のように、重要かつ尊い存在である」ことの表現である。三輪も水に恵まれていた。三輪山から流れ出る狭井河もその一つ。「サイ」は鉄の意の「セェ」が訛った言葉で、狭井はその当て字。神武天皇の皇后伊須気余理比売命の住まいが狭井河の辺りにあったと言われている。「伊須気」は「五十鈴」とおなじ「立て続けに洗う」の意のイッスズ。「余理」は古代韓国語の「オル」が転じたもので、「泉」を意味する。「オル」は発音しにくい音で、日本に来て「オロ」「イリ」「ヨリ」「ユリ」など多様に訛っている。
 閖上(ゆりあげ)という地名がある。宮城県の沿岸にあり、東日本大震災の津波で大きな被害を受けた。「閖」を何故「ゆり」と読むのか。水の湧く泉(オル)を門でかこった地を閖という。つまり地面から水が噴出する泉に花の形が似ているから、その花を百合と名づけたということなのだ。泉=閖=百合=ゆりである。
 現在、工業用水の中で鉄工業の取水量は1日平均約380万立法メートルである。しかし使用量は3800万立方メートルとその10倍で非常に多い。使用量と取水量の差が大きいのは、製鉄所では一度取水した水を使用後回収処理して、循環使用しているためである。

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